不快

飢えた獣は地を這う。


脳で発せられた麻薬物質が脳をハイジャックし、侵す。
侵された脳みそは理性の多寡が外れ、衝動を抑えられない。
「ガゥゥゥゥ──」
獣は咆哮する。
彼は痛覚と快楽に溺れ、苦しみ狂う。
ぐるぐるとした環状線が脳裏にちらつき、パチパチと音をたて、
アメーバのように踊り出した。


辺り一帯を粉々にしても、彼は止まらない。
彼はまだ暴れ足りないから。
交尾でメスを犯すような快感が全身にいきわたり、飢えた獣は
熱くなった生殖器を地面に擦り付ける。
周囲から見れば、いかがわしい行動も彼の頭では知る由もない。

メスのことしか考えられない身体で、全身を針で刺すような苦痛が、癖になり出したころ。
生殖器からは赤黒い液体がどろどろと流れ出た。
彼は、何度も、何度も、何度も、
地面に身体を擦り付けた。
それでも、狂人とかした獣が理性をとりもどすことはない。
身体にヒリヒリする感覚が新たに加わり、
脳がさらに興奮しだす。

傷だらけの背中をまるめ、獣は標的を見つけた。
彼は、通りすがりの人間に凄まじい速度で追いかけ、鋭利な犬歯でおもいっきり噛み砕く。
ぐしゃりというトマトを潰したような音が響きわたり、
彼はようやく目が醒める。

彼は今のうちに死ぬことを決断した。
前方にある直径1メートルくらいある岩に向かい、走り出す。
彼はその岩に頭蓋骨を砕くように、何度もぶつかる。

夕日が沈み、暗闇が空を包み込むころ、
彼は永遠の眠りについた。