chapter.1 出会い

私は瞳を閉じた。

夏の熱風が私の身体を撫でる。

セミがミンミンとやかましく騒いでいる。

夏の中旬を迎えた今、気温はますます上昇する。

ほおを流れる汗を拭い、思い出す。

私が幼い頃の過去の思い出を  

ーあのときもこんな天気だったな。

うんざりするような日差しに身を包まれ、

私は過去を思い返した。

 

 

*   *   *

 

 

吾輩は猫である

名前はまだない。

 

ただの飢餓状態の野良猫だ。

ああーお腹すいたなぁー。

今日も何も食えなかった……。

 

まぶしい夏の日差しがアスファルトにうちつき、

嫌になるような、熱風を放っていた。

私はなるべく、日陰になる場所を歩き

体力を奪われないようにした。

 

すると、

横からトラックが走ってきた。

あっ……。

これ……死んだな。

不思議と自分は落ち着いていた。

きっと私はトラックが来なくても

数時間後には餓死していたと思うから。

死期が少し早くなっただけ。

それなら、苦しみもがいて死ぬより

楽にいける気がする。

私はそっと目をつむる。

トラックの近づいてくる音が徐々に大きくなり、

私の死が目前に迫っているのを感じた。

 

私はここで死ぬのだ。

思い返せば満足にご飯もたべれない。

彼氏もできない。

おまけに馬糞の匂いが充満した馬小屋で寝泊まり。

ああ。私の人生ってなんだったんだろう。

 

タッタッタッタッタ

 

すると私の後方から、もう一つの何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

それが何か気になっていると、後ろからだれかに

抱き抱えられる感覚が神経を通じて伝わる。

不思議に思い、私は恐る恐る目を開いた。

そして目の前にいたのは一人の少女だった。

背は小さめで、ふりふりな白いワンピースを着こなした少女。

黒く、艶びかりする髪は麦わら帽子で隠れて、影になっている。

彼女はさっきまで死のうとしていた私のことなんか

しったこっちゃなく、私を強く抱きしめはなさなかった。

 

気がつくと、目前まで迫っていたトラックの姿はなかった。

かわりに息の切れた少女がそこにはいた。

 

「ぜぇーはぁーぜぇーはぁー

   ……こんなに走ったのひさしぶり

   ……大丈夫、君?轢かれそうになっていたけど。」

私は首をたてにふった。

 

「そう。ならよかった。」

「君歩ける?」

 

首をよこにふった。

「そう……ならちょっと待っててね。」

そういうと少女は小走りに走っていった。

 

「たすけられた」

 

私は死を覚悟していた。

それなのに人間にたすけられた。

死を先延ばしにした。

こんなことしても後数時間で死ぬのに。

……ああなんか

       意識が朦朧としてきた。

 

「ちょっと…少し…ねむる」

そういって私は道路沿いに倒れた。

 

 

 

目を覚ますと、見知らぬ天井。

ああここが天国か。

我ながらしょうもない人生いや、猫生だった。

ん?天井?

ってかここどこだ?

私もしかして死んでない。

 

「あっ…猫ちゃん起きたー」

 

ー ハグされた。

 

ちょっとまって苦しい苦しい

ギブ…ギブ…ギブアップ!!!!

「ニャー!!!」

「あっ……ごめん苦しかったよね」

そういうと少女は手を離した。

 

「命に別状はありませんが酷い飢餓状態に陥っています。

  しかし、十分な食事を用意すればすぐに 回復するでしょう。」

 

「ありがとうございます。先生」

 

「いえいえ」

 

ああ、ここ動物病院か。

ってことは私はまたこの少女にたすけてもらったのか。

 

「でもこの子野良猫なんですよね……。

  しかもこんなに小さい 。  このまま放っておいたら 

  また、倒れちゃう。

  ……そうだ!!私この子…飼います。 この子のお世話は私がします。」

 

「でも……ご家族とよく相談してからー」

 

「両親はきっと許してくれます。

  うち裕福だし、お金も大丈夫です。」

 

「分かりました。とはいえ もし、ご両親に相談して

   ダメだった場合、こちらに連絡してください。」

 

  そういって先生は施設の名前と連絡先が書いた紙を少女に渡した。

 

「はい……先生。ありがとうございました。」

 

 

 少女は病院を出る。

 彼女は私を見ながらほほ笑んだ。

 その笑顔は年相応にしおらしく、すこし儚さを感じ取れる笑みを私に向けた。

 私は数年経った今でもあの笑顔が忘れられない。

 

 

chapter.1    初めての出会い

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