chapter.3 幸福

 

チュン チュン

まぶしい日差しが窓から差し込み、部屋を照らす。

庭に植えてある  ーの木の匂いが風にゆられ鼻腔を刺激した。

私はそこで、目が覚める。

「もう……朝か。」

重たいまぶたをこすりながら、起床する。

横にはまだ安眠しているご主人がいる。

私は身体をぺろぺろと舐め、毛を整える。

この朝のモーニングルーティーンは野良のころから毎日欠かさずこなす。

 

さてと……

ほーら起きてーご主人〜。

「ニャーニャニャニャ」

「…あと5分だけ……」

もう、だらしないなー

 

私は物心ついたときから野良猫で、今まで人間の家に泊まったりしたことなんて

一度もなかった。冷たい風に体温を奪われながら、公園のベンチ下で眠る。それが私の日課

少しでも運が悪ければ永眠している。それが当たり前でいつ来るかわからない死に、

身体を震わせながら起床する。

しかし、初めての家中泊。今までの暮らしがバカに思えてくる快適さ。

私たち野良は眠るのも命がけなのに人間は寒さをしのぐ民家で眠る。

つくづく人間に嫉妬する。私たちと住む世界がちがうのはわかっている。

しかし、嫉妬せずにはいられない。

 

だって、理不尽じゃないか!!

 

こんなあたたかい日差しに包まれ起床したのに、

心はすっかり冷め切ってしまった。

 

「…大丈夫だよ 私がそばにいるから 」

「!?」

……なんだ寝言か

となりには幸せそうに眠っているご主人の姿があった。

 

私は人間を信じれずにいる。

人間は自分勝手な生き物で、気にくわないことがあったらすぐに私たちを捨てる。

野良猫はほとんどが人間の都合で捨てられた。

そんな現実を知ったとき私は人間に失望した。

自分勝手な都合で猫を飼い、都合が悪くなれば捨てる。それが人間の本質。

 

このご主人もきっとそう…いつか私を捨てるにきまってる。

 

私は階段を降りて一階に行く。

とん とん  とん とん 

階段をおり、きらびやかに装飾された長い廊下を渡る。

 

「ジューーー」

料理をしている音とともに美味しそうな匂いがしてきた。

どうやら、朝ごはんを作っているみたいだ。

……朝ごはん。私はいままで朝ごはんなんて食べない派だったから、

朝ごはんなんて食べる奴は、よっぽど裕福な暮らしをしている豪族、貴族くらいにおもっていたけど……。

そうだった このうち豪邸だった!!!

そりゃ朝ごはんといわず昼も夜も食うわなー。

 にくいね〜カネモチ!!!

 

「あ……起きたのルフナ!!おはよう

   ところでリリーはまだ寝ているのかしら?ちょっとおこしてこないと…」

 

「いえ、お母様私が行きますから」

 

「大丈夫よレイ。あなた料理中だし、たまには娘の寝顔もみたいもの」

 

「……すいません。ではお言葉に甘えさせていただきます」

 

  スタ スタ スタ

 

  お母様はご主人を起こしにいったみたいだ。

 

それより朝ごはんかーー私の分はあるのだろうか!?

 

「はぁ?お前の分なんてあるわけないだろ!!

    雑種はそこらへんの草でも食ってな!! !  」

 

なんて言われたらどうしよう。

猫は肉食だから草なんて食うかーー!!!

って思ってたけどこの際食べます?……雑草。

いざとなったら検討してみよう。

それは最終手段になりそうだな。

 

「おー美味しそうなごはんだな〜」

見知らぬ男がきた。

昨日みたときはいなかったぞ

……まさか不審者!?

この家こんな立派な見た目して警備が

ゆるゆる過ぎないか?

…まぁいい

私のシャトーに侵入するとはいい度胸ね。

二度とこの家に近づけないようにここで

痛めつけてあげないと…

ええい!!!

何処の馬の骨ともしれぬ不届き者よ!!

即刻立ち去るがいい!!!

 

「シャーーー」

 

しっぽを逆立て、鬼の形相で睨みつける。

 

「この猫が昨日いっていたルフナかーー。

   なんかめちゃくちゃ嫌われてるんだけど僕……」

 

「ルフナはまだ来たばかりで警戒しているんでしょうね」

 

聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

後ろを振り返ると嬉しそうなお母様と目をこすっているご主人の姿があった。

 

「 ねえおとうさーんこの子かわいいでしょ。

   特にこの綺麗な目!!   」

 

「…ほんとだ綺麗な瞳だな。」

 

ふふん〜褒めったってなにもでやしないわよ〜

……ん?

オトウサン?

お、倒産?

お豆腐さん?

この人……ご主人のお父様!?

たしかにいわれてみれば、顔つきがご主人に似てなくもない。

まあとりあえず冤罪だった。

いやーよかった。よかった。

私の新しいアジトが不審者に奪われるかと思ったからつい警戒しちゃって。

 

「皆様 朝食の準備ができました」

レイと呼ばれるメイドさんが朝ごはんを食卓に並べる。

 

「はい…どうぞ」

わーー朝ごはん!!!!

これが朝ごはん!!!

私…朝ごはんデビューしちゃっていいの!?

 

『いただきます』

 

うんめーー

むしゃくしゃ…こんな、むしゃくしゃ…うまい、くちゃくちゃ、ごはん

初めて、くちゃ 、食べたーーーー!!!!

 

『ごちそうさまでした』

 

食事が終わると綺麗に平らげた皿をメイドが回収していく。

 

ふーーお腹いっぱい!!!

もう動けないわ。

 

「ルフーーーナーーー!!!!」

 

「げっっっっっふ」

ご主人の たいあたり こうかはばつぐんだ!!!!

から〜の〜ハグーーーーー!!!

 

ちょ、ギブ、ギブ…ほんと苦しい。

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

私のサイレンに似た悲鳴は虚しく

苦しみはとまらない。

だめだ……もうおちる

私はデジャブを感じながら意識を失った。

 

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